いまある社会関係を活かした開発を目指して

エチオピア南部の半乾燥地ボラナ県などで学んだことを、忘れてしまわないうちに…。No Day But Today / Carpe Diem

(5) 郡レベルの参加型ワークショップ

対象とする郡(ワレダ)の決定

 5月1-2日に行われた県レベルのワークショップによる分析(「(2) ボレナ県の概況と県レベルの参加型ワークショップ」参照)を踏まえ、耕作が中心となっている高地の3郡(1. アバヤ郡、2. ガラナ郡、3. ブレ・オラ郡)の住民は本プロジェクトの対象である牧畜民・農牧民ではないことから、県の畜産開発事務所との協議の結果、パイロット事業の対象地域から外すことになった。さらに国境と接する郡・村は安全上の理由で日本人の立ち入りができないため、9. テルテレ郡の南部、11. ディロ郡、12. ミヨ郡、13. モヤレ郡も残念ながら初年度の対象地域から外すことになった。残ったのは4. ダグダ・ダワ郡、5. マルカ・ソーダ郡、6. ヤベロ郡、7. アレロ郡、8. ダス郡、9. テルテレ郡の北部、10. ディレ郡の7郡だ。そこから予算上対象とできる4郡を選定するに当たって、これまで国際機関、他国機関、NGOなどがあまりプロジェクトを実施していない、厳しい地域をできるだけ優先するというのがプロジェクト・チームの基本方針だったが、遠い郡ばかりになるとモニタリングが難しくなる(雨季には行けない村も多い)という問題もあるため、県庁所在地のある6. ヤベロ郡、その東側でボレナのガダ・システムの中心となる7. アレロ郡(手前の3村以外は、ヤベロから雨季に車で行けないことがある)、そのさらに東の8. ダス郡(東側はソマリ州と接する厳しい地域)でパイロット事業を先行させることになった。また県の畜産開発事務所は「少し状況の違うところも比較のために選んだ方がよい」という意向だったため、5. マルカ・ソーダ郡でもパイロット事業を行うこととし、その他の郡については二年目に検討することとした。その時点では明確にわかっていなかったのだが、5. マルカ・ソーダ郡はグジの人たちが住む地域(1. アバヤ郡、2. ガラナ郡、3. ブレ・オラ郡、4. ダグダ・ダワ郡とともに2016年、西グジ県として独立)であった。

郡レベルの参加型ワークショップ

 5月19日(土)には9. テルテレ郡畜産開発事務所と23村の普及員、5月20日(日)には8. ダス郡畜産開発事務所と12村の普及員、5月25日(金)には7. アレロ郡畜産開発事務所と21村の普及員による郡レベルの参加型ワークショップを開催した。筆者は5月31日(木)に帰国した後、7月2日(月)に再度エチオピア入りし、7月7日(土)に5. マルカ・ソーダ郡畜産開発事務所と13村の普及員、また8月10日(金)には6. ヤベロ郡畜産開発事務所と23村の普及員による参加型ワークショップに出席した。

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アレロ郡での参加型ワークショップ風景

 4郡のうち、一つの例として「7. アレロ郡でのワークショップ結果」を以下に示す。ボレナ県での分析結果を元に、(A) 家畜の生産性が低い、(B) 穀物の生産性が低い、(C) 現金収入が少ない、(D) 人口が急激に増加している、(E) 健康・保健の状態が悪い、という5つの分野について分析をした結果、アレロ郡における分野ごとの重みとしては(A) 家畜が35.7%、(B) 穀物が28.1%、(C) 現金収入が22.3%、(D) 健康・保健が13.8%となった。また(A) 家畜の中では、1. 牧草の不足、2. 家畜の飲水の不足、3. 家畜の病気、4. 家畜の管理、5. 家畜の移動、6. 家畜の育種、7. 畜産普及指導システム、(B) 穀物の中では、8. 農業普及指導システム、9. 種子、10. 営農、11. 農業用水、12. 種を蒔く時期、13. 病害虫、14. 土壌侵食、15. 単一栽培、(C) 現金収入の中では、16. エスニック・グループ間の衝突、17. 家畜市場の施設、18. 仲買人による買い叩き、19. 市場へのアクセス道路、20. 市場情報の欠如、21. 貯蓄文化の欠如が問題としてあげられた。

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アレロ郡での問題分析

パイロット事業の対象とする村(PA/ケベレ)の選定

 アレロ郡に21ある村ごとに(下図の現況分析は、郡の中心である1. Mata Gafarsaを左端にし、1. Mata Gafarsaからの距離順に、右端の一番遠い21. Qawa村[1. Mata Gafarsaから62km]まで並べて比較している)見てみると、郡の中心である1. Mata Gafarsa(アレロ郡で唯一町となっている)で(A) 現金収入、次いで(B) 穀物の順になっていること、1. Mata Gafarsaの山の近くで比較的降雨量の多い 2. Bokdhawa村(中心から7km)、4. Haro Dimtu村(中心から9km)、7. Renji村(中心から17km)、8. Bobela村(中心から18km)の4村で(B) 穀物、次いで(A) 家畜の順になっていること、比較的標高が高く東北部にあってグジ県に接する20. Malka Hallu村(中心から61km)で(C) 健康・保健、次いで(B) 穀物の順になっていること、そして21村中15村(約7割)では(A) 家畜が最優先分野となっていることがわかった。

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アレロ郡の村別の現況分析

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アレロの中心Mata Gafarsa(ヤギの皮は今日ヤギ肉料理があるという印)

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丘の上の町Mata Gafarsaから南の方角を望む

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Mata Gafarsaの山の近くで比較的降雨量が多く、家畜よりも耕作が重要な7. Renji村

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アレロ郡の中心Mata Gafarsaから最も遠い21.Qawa村

 各村には普及員(DA: Development Agent)が3人配置されているので、村内でこれまでに行われている協働の中から上手く行っている例をあげて貰ったところ、最も多かったのはレラ(放牧地の単位)ごとに柵を作って牧草地を管理保全すること(エリア・クロージャkalo)で、次いでオラ(自然集落)ごとに乾季・雨季の放牧地を決めて使っていることとなった。 県及び郡の畜産開発事務所と協議の上、初年度のアレロ郡でのパイロット事業実施サイトとしてまずは県庁所在地ヤベロから雨季にも行きやすく、安全上の問題も少ない3村(ヤベロに最も近い14. Hallona村、その東隣りの10. Fuldowa村、北隣りの16. Gada村)、加えて国道から別のルートを通って雨季にも行くことができ、もう一つのパイロット事業対象地域であるダス郡の村々にもつながっていることから15. Webi村の、計4村を選定した。

エスニック・グループ間の衝突

 この選定を進めていた7月の初めに、エスニック・グループ間の衝突が起こった。まず大きな衝突が起こったのはソマリ州との州境(及びケニアとの国境)に位置するモヤレだった。モヤレを連邦政府直轄の特別市にするという計画があったため、ソマリ州側の人たち(ガリというエスニック・グループ)がその前にモヤレで多数派になろうとして移住したと言われている。そして正確にはわからないが、200人を超す死者が出たという。同じようにソマリ州と接するボレナ県アレロ郡の17. Wachole村でも衝突が起こった。

 さらにその衝突はボレナ県の中央部にも飛び火し、アレロ郡の中でガブラというエスニック・グループ(もともとはボレナ・エスニック・グループと近いが、最近はガリと友好関係にあると言われている)の住む二つの村(5. Silala村と6. Kala Samuta村)、同じくヤベロ郡でガブラの住む二つの村(16. Halo Bake村と17. Tula Wayu村)の周辺でも衝突が起こった。5. Silala村はボレナの村に取り囲まれて孤立しているため、衝突が起こるとガブラの人たちは5. Silala村から退去し、グジというエスニック・グループ(マルカ・ソーダ郡はほぼグジ)の村と接している6. Kala Samuta村に避難する。またヤベロ郡でガブラの住む16. Halo Bake村と17. Tula Wayu村もグジのマルカ・ソーダ郡と接している。

 7月7日(土)はマルカ・ソーダ郡で郡レベルの参加型ワークショップを行ったが、朝、北のマルカ・ソーダ郡に向かう途中で、国道A8沿いを移動する女性や子どものグループを見かけ、異変に気づいた。衝突が起こっているのは国道から離れた地区で安全上の問題はないという県畜産開発事務所員の判断で、マルカ・ソーダ郡での参加型ワークショップは予定通り実施した。

 また7月11日(水)にアレロ郡の中心Mata Gafarsaに向かう途中、5. Silala村で顔見知りのボレナ県警の警視さん(ヤベロに案内してくれたオロミア農業省職員の同窓生で、一度一緒に食事をしていた)が指揮を執っているのを見かけた。Silala村は放棄され住民はいないということだった。アレロ郡では紛争対応のための会議が開かれており、Mata Gafarsaでも警視さんと出会った。

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ボレナ県警の警視さんたち