いまある社会関係を活かした開発を目指して

エチオピア南部の半乾燥地ボラナ県などで学んだことを、忘れてしまわないうちに…。No Day But Today / Carpe Diem

(16) ようやく気がついたこと

週末の食事

 3月30日(土)はテルテレ郡に聞き取りに出かけたので、お昼はテルテレの中心で定番のバイヤイナトゥ(ベジのインジェラエチオピア正教徒の多いアムハラ州では、毎週水金など肉断ちの日にだけこの料理を出す店も多いが、ボラナ県ではほとんどの店で毎日提供される)とパスタのセットを食べた。2人前なのでインジェラは2枚敷かれているが、実際には3人で食べている。「人数マイナス1」で注文することが多い。また上に載っている具の種類によって、その地区の農耕の様子も想像できる。テルテレ郡は北のコンソ特別郡(南部諸民族州)から移り住んできた農牧民コンソの人たちも多いので、野菜が豊富だ。

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ランチはテルテレ郡の中心でバイヤイナトゥー(ベジのインジェラ

 夜はヤベロのカフェでスプリス(ミックス・ジュース。これはパパイヤとアボカド。都会や果物の豊富な地域では3種、4種と豪勢なミックスになるが、ヤベロでは2種でもないことがあるし、村レベルではメニューにない)と、ベジタブル・ライス(パーボイルド米)にアボカド・サラダ。

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夜はヤベロでスプリス(ミックス・ジュース)。

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パーボイルド米のベジタブル・ライスとアボカド・サラダ。

 翌4月1日(月)もアボカド・サラダ(ある時に食べないと次にあるとは限らない)そしてマキアートを頂く。

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アボカド・サラダとマキアート。

「期間限定・地区限定・対象限定・目的限定」のプロジェクトというアプローチをやめる

 さて、3ヶ月ぶりにボレナ県(ヤベロ)に来て約2週間。RREPで1年次の対象とした4郡16村のコミュティ−・ベースの活動の様子を見聞きして、心の底から驚嘆した。こんなに上手く行ってよいのか、たまたまそういう村に来てしまったのではないかとも思ったが、毎日どこへ行っても同じような話ばかり聞こえて来るので、村人たちにとっては「普通に」上手く行っているのだろうということを確信した。ほんの3ヶ月前には、「お金を払わなければ働く訳がない」と聞いていたのが、本当に嘘のようだ。逆に言えば、そこまで村の人たちのことがわかっていないとは一体どうしたことか…。

 正直に白状すれば、配布した工具が「プロジェクト」以外の活動にも使われていると最初に聞いた時にも、「もしかして一部の人たちが工具を独占して使っているのではないか?」「耕作とか、私的な活動に使っているのではないか?」という疑いを持ってしまった。けれどもそれもまったくの杞憂だった。我々が「プロジェクト、プロジェクト」と思っているからそう見えてしまっただけで、村の人たちは「日常的に協働している開発活動」の中に我々の「プロジェクト」を位置づけ、日常的な活動の一環としてRREPの活動をやっているに過ぎないのだとようやく気づいた。要するにこれまで通り協働しているというだけなのだ。これにはもう唸るしかないと思った。

 では我々はどうすればよいのか、どんな役割を果たすことができるのか? まず第一に「プロジェクト」ではないのだから、やっている開発活動の定義、位置づけを変えなければならないと考えた。これまで村ごとに参加型ワークショップをやり、さらに優先度の高い「プロジェクト」を複数選んでもらうという「参加型計画プロセス」を取って来た訳だが、そんなものは「我々が勉強するのに役立った」というだけで、村の人たちには何の足しにもならないものだったに違いない。村の人たち、特に長老やリーダーたちは毎年毎シーズン、何を協働してやる必要があるかを考え、遊牧や耕作など他に必要な活動との間で優先度を決め、その決定にしたがって村の人たちは毎週の活動を続けているのだ。であれば県や州やまた我々のような外部の人間が、そのような「持続的、自立発展的な活動」から「期間限定・地区限定・対象限定・目的限定のプロジェクト」だけを切り出し、優先度を付けて工具や材料を「配分」することに一体何の意味があろう。そこで「プロジェクト」というアプローチをやめ、外部から優先度を付けたり「配分」したりすることもやめるということにした。

RREPアプローチ対プロジェクト・アプローチ

 ここに示す3枚の下手くそなチャートの写真は、週末に考えをまとめ、2013年の4月1日(月)に撮影したものだ。

 まず村人たちの日常的な活動と「期間限定・地区限定・対象限定・目的限定」のプロジェクトというアプローチとは一体何が違うのかを考えた。例えばハロ(ため池)の工事を考えた場合、通常は村人たちがショベルなどを使って掘って作り、そして毎年雨季になると堆積してしまうシルトをショベルで掘り返すという作業をしている。雨季が始まって土が柔らかくなり、一方牧草を求めて遠くに行っていた牛たちが戻って来た頃にはため池を拡張する活動も行われる。特に障害でもない限り、このような協働を村人たちはずっと続けて来ている。けれども例えば固い岩盤にぶち当たってショベルではどうにもならない場合にはノミとハンマーが必要になる。つまりそのような「問題」が生じた時にだけノミとハンマーのような特別なインプットを準備し、「期間限定・地区限定・対象限定・目的限定」のプロジェクトで解決すればよいのだ。それが終わればまたショベルで日常的な活動を続ければよいということになる。

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RREPアプローチ対プロジェクト・アプローチ(コンセプト)。

 ではプロジェクトでいうターゲット・グループ(対象)、期間、問題解決などをRREPではどう扱えばよいのであろうか。プロジェクトでは「期間限定・地区限定・対象限定・目的限定」であるだけではなく、細かな計画やインプットも固定される。けれどももしRREPをコミュニティ・ベースの日常的な活動の中に位置づけるとすればどうだろうか。ターゲット・グループ(この場合、直接的な受益者であると同時に活動の主体でもある)は人の飲用のハロ(ため池)であれば1つか2つ程度のオラ(自然集落)であるが、家畜用のハロはレラ(牧草地の単位)あるいはゾニ(1つの村を3つに分けた地区)単位で運営されるので通常5ないし10というような数のオラがターゲット・グループとなる。さらにエラ(伝統的な井戸)の改修となればその所有者であるアバ・エラ(通常はクランの所有)を中心にさらに多くに人々がターゲット・グループとなる。つまり同じオラがいくつもの異なる活動に参加しており、しかも活動の種類によってターゲット・グループは大きくなったり小さくなったりしているのである。では期間はどうであろうか。プロジェクトというのは数ヶ月だったり数年だったりという形で期間を限定したアプローチであるが、コミュニティの活動には期限はなく、持続的、自立発展的な活動ということになる。さらにプロジェクトの目的は通常一つであり、しかも予め設定されるが、コミュニティの活動は多岐に渡っており、したがって状況に合わせていくつもの目的が日替わりで変わって行くということになる。

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RREPアプローチ対プロジェクト・アプローチ(ターゲット・グループ、期間、目的)。

 ではそのRREPをどうモニタリングし、評価すればよいのであろうか。プロジェクトの場合はPDAサイクルのようなものが設定され、分析、戦略設定、プロジェクト・デザイン、実施、モニタリング、評価、事後評価というような順で実施される。けれどもRREPでは、多様な活動が異なるターゲット・グループ(直接的な受益者であり同時に活動の主体)によってある時は同時並行(週の中で水金の活動、火木の活動というように進行する)で、ある時は月あるいはシーズン毎に入れ代わり立ち代わり実施される。となると、それを外部者がつきっきりでモニタリングし評価することなどまったく不可能であり、それぞれの活動について村(集落)単位で記録し、評価するのが良いのではないかと考えた。幸いなことに村には3人の普及員が配置されており、それぞれが3つあるゾニを1つずつ担当している。そこでその普及員たちにお願いして記録を取って貰うため、必要なフォーマットをこちらで準備し、モニタリング・評価までして貰うということを中間評価のためのワークショップで提案することにした。

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RREPアプローチ対プロジェクト・アプローチ(モニタリング・評価)。