いまある社会関係を活かした開発を目指して

エチオピア南部の半乾燥地ボラナ県などで学んだことを、忘れてしまわないうちに…。No Day But Today / Carpe Diem

(18) RREPアプローチのモニタリング・評価について考える

何をモニタリング・評価するのか

 「(16) ようやく気がついたこと」に書いたようなRREPアプローチをとる場合、一体どのような形のモニタリング・評価をすればよいのか? 古典的なプロジェクトの評価とどこを変えればよいのか?

 実は2003-4年のマラウイ国「小規模灌漑開発技術力向上計画調査」を通じて痛感していたことがあった。この調査では「毎年乾季が始まる頃に、木の枝や竹や草・粘土などで堰を作り、水路を掘るという小規模(10〜30人程度)な灌漑」を普及したのだが、1年目の乾季に23ヶ所で始めた灌漑スキームが2年目には287ヶ所にまで、「爆発的」と言ってよいような拡がりを見せた。チームとしてやったのは堰に適した場所の簡易的な探し方(村人たちが川を渡る時に使っている場所が堰にも適していることが多い)、堰の組み方などを伝授すること、そしてたくさんの普及員を研修して各地でそれぞれ普及して貰うことくらいだった。やり方さえわかれば、誰にでもできる灌漑だった。

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小規模灌漑の堰の例(マラウイ

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小規模灌漑の水路の例(マラウイ

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小規模灌漑の水路橋の例(マラウイ

 けれども実はそこまで拡がるとは誰も予想していなかった。事前に想定していたよりも堰当たりの灌漑面積はずいぶん小さく、これで十分な便益があるのかと心配になるほどだったからである。ところが終了間際になって、なぜみんながそんなに頑張ったのかを聞いて回って、その謎が解けた。

 第一に、村人たちは「重力灌漑」というものを知らず、畑に水が来るまで、水路からバケツで水を汲んで畑に運ばなければいけないと思っていた。チームが小さいと思っていた面積は、実は「こんな広いところにバケツで水を撒いていたら疲れて死んでしまう」と思うような広大な面積だったのだ。第二に乾季のメイズは粉にして主食シマ(ウガリよりも細かく挽くのでモッチリしている)にするのではなく、そのまま焼きトウモロコシ用に売っていた。そうすると価格は数倍になるので、面積が小さくても結構な儲けになった。第三に灌漑した畑は緑色になって、乾季にも遠くから目立つのでデモンストレーション効果が抜群で、普及などしなくても見様見真似で始める人が出てきた。

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実は重力灌漑を知らなかったと教えてくれた、ある水利組合の事務局長(マラウイ

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この事務局長が畑を指差して収入の計算をしているのを見て、メイズが商品作物だと気づいた。(マラウイ

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知らないうちに、一人でこんな水路を作ってしまった人がいた。(マラウイ

 そのような時に、それぞれの灌漑スキームを1つのプロジェクトとして扱って評価してもあまり意味がないのは明らかである。であれば、「期間限定・地区限定・対象限定・目的限定」というプロジェクトの定義を取っ払う必要があると考えた。そして① 1年・1シーズンだけではなく(「期間限定」ではなく)ある程度長期的に捉える、② プロジェクトに直接関わった人たちだけではなく、常に地域全体のことを評価する(プロジェクトの対象地域、ターゲット・グループという「地区限定」「対象限定」を外す)、③ 灌漑というプロジェクトだけではなく、そこから発生する様々な活動も併せて評価する(「目的限定」ではなく、開発に関わるすべての活動を対象とする)こととした。最初にプロジェクトを始めた人たちについては第二世代、第三世代と(まずは乾季の小規模灌漑が次の年もその次の年も継続的に実施されるか。さらに乾季に小規模灌漑をやったことで雨季に改良種子や肥料を購入するか、翌年にはじゃがいもやトマトに挑戦するなどの動きが出て来るかなどを)「垂直的に評価」する、さらにそのプロジェクト(この場合、小規模灌漑)が周辺の村や他の地域にどう拡がって行くかを「水平的に評価する」というやり方である。農村開発においてはプロジェクトらしい独立したプロジェクトというようなものはほとんどなく、すべてのプロジェクトが実はパイロット・プロジェクト、デモ・プロジェクト、あるいは実証プロジェクトであると考えた方が実態に近いのではないだろうか。

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垂直的な開発と水平的な開発の考え方(マラウイ

 そのような考えの延長として、ボレナ県の1年次対象の4郡16村でも、① 「期間限定」ではない継続的な活動(日常的活動)として、② 村中の人たちを「地区限定」「対象限定」ではなく面的に、そして、③ 「目的限定」ではなくすべての開発活動(協働)をモニタリング・評価することを基本にした。

評価5項目

 JICAで通常使われているDAC評価5項目(経済協力開発機構[OECD]の開発援助委員会[DAC]による国際的なODA評価の視点)に基づいた上で、RREPのモニタリング・評価では次のような「解釈」で臨み、5段階評価して貰うこととした。

効率性(efficiency)

① 活動は予定通りに進みましたか?

② こうやればもっと良かったというようなことがありましたか?

有効性(effectiveness)

① 当初考えていた目的は達成されましたか? どの程度達成されましたか?

② 次に同じような活動をするなら、ここはこうしたいということがあったら教えてください。

 

インパクト(impact)

① 活動をしたことで、何か良いことはありましたか?

② 良いことでも悪いことでも、活動をしたことによって何か変化が起こっていたら教えてください。

 

妥当性(relevance)

① まだこの活動を始めていなかったとして、いまの時点で新たに何か始めるとしたら、やはりこの活動を最優先にやりたいと思いますか?

② 政府の政策や戦略はいまでもこの活動を後押ししていると思いますか?

 

持続性(sustainability)

① 来年もこの活動を続けたいと思いますか?

② この活動を親戚や友だちにも勧めますか?

③ (普及員として)この活動を他の村々にも拡げたいと思いますか? もし拡げたくないとすれば何故ですか?

④ この活動で足りなかったこと、またこうすればもっと良かったというようなことがありますか?


 2013年の4月21日(日)ー22日(月)に予定されていた第1期の中間評価では、それぞれの村での活動について、下表のような評価表を使うことにした。

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第1期の中間評価(2013年4月21日(日)ー22日(月))のために用意した評価表。