いまある社会関係を活かした開発を目指して

エチオピア南部の半乾燥地ボラナ県などで学んだことを、忘れてしまわないうちに…。No Day But Today / Carpe Diem

(2) ボレナ県の概況と県レベルの参加型ワークショップ

ボレナ県の概況

 初めての現場では、調査対象地域を車で縦横に走って、地域全体なイメージをつかむようにしている。県の畜産開発事務所の人たちがまず案内してくれたのはボレナの伝統的な中心地であるアレロ郡(郡の中心Mata Gafarsaはヤベロから東に約80km、1時間半、標高1,695m)であったが、雨季で道を通ることができず(プロジェクト実施中に全天候型道路が完成し、雨季でも通れるようになった)、途中で引き返して、ディレ郡の中心メガ(ヤベロから南に約100km、1時間半。舗装路。プロジェクト期間中に中国企業が拡幅舗装工事を完成)の回りを見学した。その際に見た主な場所は、ヤベロ郡内のため池と治山治水プロジェクト(PSNP: Productive Safety Net Program、国のセーフティネット・プログラム)、畜産市(ハロバケ、 毎週日曜日)、穀物市(ヤベロ、毎週火曜日)、ダグダ・ダワ郡内の治山治水と苗床プロジェクト(PSNP)、小学校建設(PCDP: Pastoral Community Development Project、世銀畜産コニュニティ開発プロジェクト)、ディレ郡内の小学校建設、畜産ポストの建設(PCDP)、伝統的井戸(エラ)の改修(PCDP)、畜産市(ドゥブルク、毎週金曜日)であった。

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ハロバケの畜産市

 さらにケニアとの国境の町モヤレ(メガから南東に約100km、1時間半)まで足を伸ばした。ケニアとの国境の町モヤレでは標高が1,100mまで下がっていた。一方、メガの手前の標高1,910m前後の高原には豊かな畑が広がっていた。

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ケニアとの国境にあるモヤレ付近

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メガの手前の高原の豊かな農地

 またヤベロから西に約100km、1時間半でテルテレ郡の中心(標高1,388m)に達するが、その途中テルテレ郡に入った辺りでは標高はいったん890mまで下がった。テルテレ郡の南端でケニアと接する辺りになると標高は750mしかないのであった。つまりボレナ県は1,800mを越えるような北の高地部(現在は西グジ県として独立)を除けば大部分が標高800〜1,200m程度の半乾燥地サバンナであり、ヤベロ、メガ、テルテレなどはサバンナの中にそびえ立つ標高1,400m〜1,900mの丘の町だということだった。そして耕作は基本的に高地(現在は西グジ県)と丘の周りでだけ行われていると考えられた。

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テルテレ郡に向かう途中の低地(大雨季)

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テルテレ郡の丘の上の農地

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テルテレ郡の丘の上の農家

 ヤベロに着いてわかった大きな出来事としては、4月9日(月)に県の畜産開発事務所長が解任されたこと、県知事は半年前に既に解任されていたことがあげられる。ボレナ県と同じようなエスニック・グループの住んでいるケニア側のマルサビット県では3ヶ月前にボレナとガブラの間の衝突が起こり、死傷者が出たという情報もあった。そのため、当面は、ケニアと国境を接する郡には立ち入らないようにすることとなった。

県レベルの参加型ワークショップ 

 ワークショップのファシリテーションと聞き取り調査のために、早速テクニカル・アシスタントの募集に入った。ボレナ県畜産開発事務所(Pastoralist Development Office : PDO)を窓口にしてファシリテーター/フィールドワークのアシスタントとしてオロミア語ボレナ方言のできる人材の募集を掛けたところ60人の応募があり、書類審査、小論文による筆記試験、県畜産開発事務所の担当者/人事/県庁/プロジェクト・チームの四者によるオロミア語ボレナ方言と英語の面接を経て、2名の優秀な男女を採用した。1名は元県の農業事務所職員でOxfamのモヤレ事務所に勤務していた水資源管理学科卒の女性Alemさん、もう1名はヤベロ出身で言語学科卒の男性Ibsaさんとなった。

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優秀なアシスタント2名

 県レベルの最初のワークショップ(2012年5月1-2日)では、県内13郡のうち5. マルカ・ソーダ郡をのぞく12郡の代表(郡畜産開発事務所職員および普及員[development agents / DAs])の参加を得て現況分析を行った。その結果、郡農業事務所(AO)の置かれた高地(1. アバヤ郡、2. ガラナ郡、3. ブレ・オラ郡の3郡)の穀物生産中心の3郡と郡畜産開発事務所(PDO)の置かれた低地の畜産中心の10郡では状況がまったく違うこと、13郡のうち8郡(全て低地)では郡内の全ての村が「慢性的な食糧不足」にあるという厳しい状態にあることなどがわかった。

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ボレナ県の郡別の現況分析(マルカ・ソーダ郡は欠席)

 最優先課題としては「牧草の不足」をあげたところ最も多く低地の6郡(6. ヤベロ郡、8. ダス郡、9. テルテレ郡、10. ディレ郡、11. ディロ郡、13. モヤレ郡)、「家畜の飲水の不足」(4. ダグダ・ダワ郡、12. ミヨ郡)と「農業普及・指導システム」(2. ガラナ郡、7. アレロ郡)がそれぞれ2郡、「農業用水」(1. アバヤ郡)と「土壌浸食」(3. ブレ・オラ郡)が高地のそれぞれ1郡であった。

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ボレナ県の郡別の優先課題(マルカ・ソーダ郡は欠席)

 ここでボレナ県の13郡とアグロ・エコロジカル・ゾーンの関係を下図(エチオピア農業省が1996年に作成した地図を、国連人道問題調整事務所[UN-OCHA]の2012年3月のGPSデータに重ねたもの)に示す。この図では、ボレナ県の中央部はかなり広い部分がmoistというアグロ・エコロジカル・ゾーンに指定されているが、県レベルの参加型ワークショップでの普及員による分析では、北部の1. アバヤ郡、2. ガラナ郡、3. ブレ・オラ郡だけが高地、すなわち雨の多い地域であり、雨の多い地域を広めに捉えたとしても、4. ダグダ・ダワ郡、5. マルカ・ソーダ郡を加えた5郡までであることから、それ以外の8郡というボレナ県の広い地域が半乾燥地であると考えられる。なお2016年の6月には、北部の5郡が西グジ県として独立したため、現在のボレナ県は一部の丘陵を除いたほぼ全域が低地・半乾燥地となる。

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ボレナ県の13郡とアグロ・エコロジカル・ゾーン